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【検証 メタボリックシンドローム】ドイツDMP(疾病管理プログラム)

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平成21年5月6日の産経新聞に弊社代表・古井祐司の記事が掲載されましたので、記事の内容をご紹介いたします 。

  • (産経新聞社より許可を得て転載)

成果あがる重症化防止プログラム

 ドイツでは、近年、糖尿病や心臓病など慢性病の重症化を予防するため、保健指導なども取り入れた「DMP(疾病管理プログラム)」を進めている。わが国の特定健診・保健指導は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念のもと、病気に陥る前にリスクを見つけて予防するという世界でも例がない「未病」の人も含めたプログラム。これに対しドイツのプログラムは、あくまで患者を対象にし、病気の進行と合併症を防ぐのが狙い。施行してほぼ5年たち、参加率は50%となったうえ、例えば、糖尿病の重症化による死亡率が25%減、治療中断者も減り、成果を挙げつつある。日本の保健指導でも、治療が必要な患者の動機付けなど検討すべきノウハウも含まれている。ドイツの医療システムに詳しい東大病院助教でヘルスケア・コミッティー代表取締役の古井祐司氏に聞いた。

  • (大串英明)

古井祐司 写真

選択できる「疾病金庫」

 古井氏は2月上旬、ドイツの公的医療保険制度下で導入され、注目を浴びている「DMP(Disease Management Program=疾病管理プログラム)」を中心に、国や医療保険者、医師会など7施設の視察を行った。
 現在、世界各国の医療制度には3つのタイプがある。国民・事業主が供出する保険料を主に医療保険を運営するドイツ、フランス、日本。主に税金の英国、スウェーデンなど北欧系、そして、一部の公的保険を除いて大半が民間保険の米国などに分かれる。ドイツは最初に公的な医療保険ができた国だが、増える一方の慢性病や、病気の重症化で医療財政も逼迫(ひっぱく)してきた。そこで2003年からDMPの制度が取り入れられ、成果が注目されていた。
 DMPは、治療における「医療機関相互の連携」から「重症化予防」にまで枠を広げたプログラム。プロジェクトの中心的な組織が、「疾病金庫」。日本の「健保組合」「国民健康保険」にあたる医療保険者だ。特徴的なのは、国民がどこの疾病金庫に入るか自由に選択でき、公的保険ながら競争原理が働いている点だ。
 もうひとつの特徴が、「リスク構造調整」。性・年齢・扶養率・所得によって病気になる確率などが違うので、ドイツでは、ひとまず保険者から受け取った保険料を国で一括してプールし、各疾病金庫へ再配分する。「再配分の際に、高齢者の率が多いところなどに手厚く配分するシステム。疾病金庫には、日本の国保にあたる地域のものと、企業健保にあたる職域のものと2種類あり、要は、そうした疾病金庫に対する財政調整なのです」と古井氏。
 疾病金庫の選択ができるようになったのは、1993年。たちまち競争が激化して統合も進み、保険料をダンピングしたり、リスクの少ない健康な人を入れるようになるなど課題が噴出したため、2001年に再び法改正。そこで登場してきたのが、DMPという3次予防のプログラムだった。実際に運用され始めたのが2003年からで、導入の動機付けとなった制度の一つが医療保険者への付加金。例えば糖尿病患者が1人DMPに参加した場合は、国の保険料のプール金から該当の疾病金庫に10万円が支給されることになった。
 古井氏は「そこにインセンティブが働いたので、疾病金庫としても財政的には助かるわけですから病気の人を拒むことも減り、DMPの導入を受け入れやすかったのではないか」と語る。
 古井氏に対し、疾病金庫連合会幹部のヘラー・デリンゲル氏は、「日本の場合、すべての人に『健診』でスクリーニングをして、病気になる前から予防する仕組みがあるのはうらやましい」と語ったという。実は健診(の機会の提供)が法律で義務付けられている日本と違って、ドイツなど欧米は、病気になる前の人を対象とした集団健診の制度は乳がんなど一部の病気を除いてない。このため、具合が悪くなって初めて「検査」を受けることになるので、患者になってみないとどのくらい病状が進んでいるのかわからない。
 こうした事情を背景に、増える一方の糖尿病や心臓病などの慢性病に対してドイツも、予防策を強化せざるを得なかったのだろう。2007年から、DMPのプログラムに参加した患者は、外来診療の自己負担金を無料にするという、DMPのさらなる推進策をとったのである。

ドイツの疾病金庫連合会の建物=ベルリン市内 写真

ドイツの疾病金庫連合会の建物=ベルリン市内

DMPの対象は患者のみ、日本は「未病」段階から

 「日本で行われている特定保健指導ほど細やかではないようですが、保健師、管理栄養士などによる指導プログラムに従って、食事のチェックや血糖、血圧なども測ることになっています。患者にインセンティブが付いていることもあり、参加率もどんどん増えていったわけです」と古井氏。
 DMPの疾患対象は、あくまで生活習慣病がメーン。具体的には糖尿病・冠動脈疾患・ぜんそく・COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)、乳がんが含まれる。来年からは肥満・心不全も対象に加わる。現在、全体で対象者はおよそ600万人。実施に当たっては、最初に主治医から診断を受け、保健指導やセミナーなどもちゃんと受けるよう勧められる。保健指導は主に食事指導が中心になっているという。DMP参加者の検査結果などは、今年から電子フォーマットが統一され、保険者と共有される。
 古井氏は「ドイツの対象者は患者のみ。日本は主に『未病』の方が対象というところが違っている。日本でも1次予防だけでなく、病気になった人が重症化して心筋梗塞(こうそく)や腎不全にならないようなDMPのようなサービスを実施すれば、患者のQOL向上だけでなく、費用対効果が見えやすいので、コンセンサスが得られやすいのではないでしょうか」とも指摘している。

 

日本の特定健診・特定保健指導の流れ ドイツのDMP(疾病管理プログラム)

糖尿病の死亡率、約25%減少

 制度発足5年後、DMPの受け入れ具合はどうだったか。対象患者600万人のうちすでに300万人が参加している。中でも多いのは糖尿病(参加者全体の55%)と冠動脈疾患(同25%)の順。ちなみにわが国の特定健診制度では、特定保健指導の参加率は5年後に目標45%としている。
 ドイツ保険医協会幹部、ヘラー・リッチェホッファー氏は、医療面での成果について、「5年間たった今、糖尿病の重症化による失明や人工透析導入、死亡率そのものも減少するという効果が出始めています」と話す。最終結果は今年夏に取りまとめる予定だが、同協会によれば、(1) 糖尿病の目安であるヘモグロビンA1cや血圧など身体状況のコントロールが良くなった、(2) 下肢の壊死(えし)、失明など重症化の減少、(3) 糖尿病の重症化に関して、DMP参加者の死亡率が9・5%に対し、非参加者は12・3%と、参加者の死亡率は4分の1程度減っている。このことについて同協会では、治療だけでなく保健指導が寄与している▽家庭医と病院の専門医らとの連携や必要な治療の継続がうまくいき、治療の中断が減ったこと-などを挙げている。
 わが国の特定健診・保健指導は、スタートしてまだ1年。地域や職域で「情報提供」やリスクの多い人への「積極的指導」など、大掛かりな保健指導が進みつつある。リスクが重なっていて医療機関への受診が推奨される「受診勧奨」(2次予防)や、すでに治療を受けている人へどのような保健指導が導入できるか。 3次予防に特化しているとはいえ、DMPの施策は先例としてひとつの示唆を与えているだろう。
 古井氏は「DMPは患者さんが対象なので、非常に効果が見えやすい。しかし、症状が出てからでは病気は間違いなく進行しているわけで、本当は日本のような、病気になる前からの1次予防を行いたいのでしょう。ドイツでは性・年齢・所得などによる構造調整を改め、今年から有病率を加味した構造調整を始めているのもその表れのようです。高医療費にもつながる重症化がこうした制度で確実に防げると確信を持ち始めているのでは」と話す。日本の施策については、「日本で生まれた特定健診制度はまさに予防の王道をいっているわけですが、参加(受診)率を増やすために、被保険者や保険者のメリットを考えた動機付けをする必要があるでしょう」と語っている。

 

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